• 写真展「海」

    会期:2022年2月11日(金・祝)ー3月27日(日)
       9:30-17:00(入館は16:30まで)
    *休館日:月曜日(祝日の3月21日は開館)
    会場:下関市立美術館
       山口県下関市長府黒門東町1-1 TEL:083-245-4131
    観覧料:一般 1,200円(960円)大学生 960円(760円)
    *()内は20名以上の団体料金
    *18歳以下の方、高等学校、中等教育学校、特別支援学校に在学の生徒は無料。下関市内在住の65歳以上の方は半額。いずれも公的な証明書をご提示ください。

    ゲストキュレーター:藤木洋介(Yosuke Fujiki VanGogh Co.,Ltd.)

    主催:下関市立美術館、毎日新聞社、tysテレビ山口
    助成:芸術文化振興基金
    協賛:やまぐち文化プログラム、山口県立下関南高等学校翠ヶ丘同窓会
    協力:九州産業大学 芸術学部、(株)写真弘社、
    山口県立下関南高等学校、山口県立下関南高等学校S61同期会

    *同時刊行 写真集『海 - 1967 2022 下関 東京』株式会社リトルモア

    下関市立美術館
    http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/
    野村佐紀子写真展
    http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/2021/sn/

    タイトルの「海」は、日本海に面した街、下関市綾羅木に育った野村の生い立ちに起因します。学校からの帰り道はちょうど海に沈もうとする夕日に向かって進むこととなり、街全体がオレンジ色の光に染まって、それはそれは圧倒的なのだと彼女は述懐します。海の近くで、海の気配を感じながら育ったことは、彼女の感性の重要な部分を形作っているようです。展覧会では、下関で撮影された作品も随所に登場します。それは観光ポスターに登場しそうな「いかにも」な下関とは少し違った、日常的に目にするありふれた街角のようでもあり、あるいは記憶のどこかに存在する懐かしい風景のようでもあります。現在東京を拠点に活動する野村の眼差しがとらえた、ふるさと下関の姿です。
    「海」は野村佐紀子の写真の世界を言い表す、いわば象徴的な存在です。写真家としてのキャリアを通じて野村が追い求めてきたモノクロームによる表現は、淡い光が照らし出す静かな海底を思わせます。さらに、穏やかな時もあれば激しく荒れ狂うこともあるのが海。「海」は、静かだけれども激しい、繊細でありながら力強いといった、野村の写真に潜むアンビバレントな魅力にも通じるものです。例えば、祖母の死を経て発表された写真集『春の運命』(2020年)について、彼女は「美しいものと一番悲しいもの、痛みと美しいものが一緒になるようにと思って作った」と述べています。愛おしさと切なさが交錯する故郷への思いも、死と隣り合わせの生の儚さと、だからこそかけがえのない愛の行為も――喜びと痛みが同居する感覚は、彼女の作品世界に共通して流れているもので、それこそが大きな魅力となっています。
    写真は撮る者と撮られる者との関係性を非常に敏感に映し出すメディアであるようです。野村佐紀子の写真は、被写体の一瞬の表情や距離感から、恐らくその場に流れていたはずの雰囲気を繊細に受け止めて、シャッターが切られていることを伝えます。ヌードも含め、モデルを務める人々との信頼関係を丁寧に作り上げていく野村のスタイルが、作品のこうしたところに表れています。
    彼女が見据え、撮り続けるのは、ヌードを撮ることで生まれる緊張感や感情の揺らぎ、人と人との関係性の面白さ。彼女はあくまで自然体で、これまでのようにこれからも撮り続けていくでしょう。写真家野村佐紀子の現在地を、ぜひ見届けてください。

    下関市立美術館 副主任(展覧会担当) 渡邉 祐子
    (下関市立美術館広報誌『潮流』135号 「野村佐紀子 写真展 『海』を前に」より抜粋)